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世界の混乱の原因はアメリカのパワー低下と多極化? “第三次世界大戦前夜”に日本は何をするべきか

■日本にとっての安全保障上の懸念

 

 日本にとって、この傾向は深刻な安全保障上の課題をもたらす。東アジアは、台湾海峡や朝鮮半島をめぐる緊張が既に高まっている地域である。台湾有事の可能性は、中国の軍事力増強と米国との対立が深まる中で、現実味を帯びてきた。中国は台湾を自国領土とみなしており、必要であれば武力による統一を辞さない姿勢を示している。一方、米国は台湾への武器供与や「戦略的曖昧さ」を通じて、中国の軍事行動を抑止しようとしている。しかし、多極化の進展により、米国の抑止力が弱まれば、中国が軍事オプションを選択するリスクが高まる。

 

 同様に、朝鮮有事も無視できない脅威である。北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの開発を加速させ、挑発的な行動を繰り返している。日米韓の連携による抑止が機能しているものの、北朝鮮の予測不可能な行動や中国・ロシアの暗黙の支援により、紛争のリスクは高止まりしている。これらの有事が発生した場合、日本は地理的近接性から直接的な影響を受け、難民流入、経済的混乱、さらには軍事攻撃の標的となる可能性がある。

 

■日本の対応策:抑止力の強化と多国間協力

 

 このような国際環境の中で、日本は自国の安全保障を強化するための戦略を講じる必要がある。第一に、抑止力の強化が不可欠である。日米同盟は日本の安全保障の基軸であり、米国の軍事力と日本の自衛力が連携することで、地域の安定を維持できる。自衛隊の能力向上、特にミサイル防衛やサイバー防衛の強化は急務である。さらに、2022年の国家安全保障戦略改定で示された「反撃能力」の保有は、中国や北朝鮮に対する抑止力を高める重要な一歩である。

 

 第二に、多国間協力の推進が求められる。米国一国への依存には限界があるため、日本はオーストラリア、インド、欧州諸国との安全保障協力を強化すべきである。クアッド(日米豪印戦略対話)やAUKUS(豪英米同盟)といった枠組みを活用し、中国の覇権的行動を牽制することが重要である。また、ASEAN諸国との経済・安全保障面での連携を深めることで、地域の安定に貢献できる。

 

 第三に、外交努力を通じた紛争予防が不可欠である。日本は国際法とルールに基づく秩序の擁護者として、積極的な外交を展開すべきである。国連やG7といった場での発言力を高め、紛争のエスカレーションを防ぐための国際的な枠組みを強化する必要がある。

 

■結論

 

 世界の多極化と米国のパワーの相対的低下は、地域紛争の肥大化を助長し、各国指導者が軍事オプションを選択するリスクを高めている。この傾向は、日本にとって安全保障上の重大な懸念であり、台湾有事や朝鮮有事の可能性は現実的な脅威として認識されなければならない。日本は日米同盟を基軸に抑止力を強化し、多国間協力を推進し、外交努力を通じて紛争予防に努めるべきである。国際環境の不確実性が高まる中、日本が主体的に安全保障戦略を構築し、地域の安定に貢献することが求められている。

イメージ/イラストAC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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